朝起きる・発熱・水を飲む の3点をとにかく自分好みに書くというお題。


 窓から差し込む陽光が、ちりちりと肌を焼く。
 平生の朝であれば良い天気だと気持ちよく体を起こすこの状況だが、今朝はとてもそのような余裕がない。瞼を持ち上げれば視界は万華鏡のようにぐるぐると回り、体を起こそうとしても四肢は震えるばかりで上手く力が入らなかった。
 呼吸を乱しながらもやっとのことで上半身を起こし、今や邪魔でしかない布団を片足で部屋の隅へ追いやる。額に脂汗が滲み、外跳ね癖のはずの赤毛は頬に張り付いていた。
 これはどう考えても、只事ではなく。元気と笑顔が取り柄の俺にとっては空から飴が降るほど珍しいことだが、発熱を認めざるを得ない。
「みず」
 零れた声は自分のものとは思えないほどのひ弱さだ。それに自ら驚く間もなく、喉の違和感に堪らず咳き込む。
 立ち上がることすらも億劫で、四つん這いのまま水瓶までのろのろと這っていった。凪いだ水面を躊躇なく荒らし、柄杓に齧りつく勢いで冷水を呷る。
 しばし、部屋には嚥下と滴りの音だけが響いた。
「ああ」
 やっと呼吸を思い出して顔を上げる。何杯飲んだかは数えていない。ただ、「まるで甘露水のようだ」というのはこういうときに言うのだなと、頭の端で思った。
 そのまま床に座り込んでぼうとしていると、火照った体が冷めて余裕が戻ってきたらしく、今まで気にも留めなかった事柄が目に入ってくるようになる。
 いそいそと、首筋まで零れた水滴を腕で拭い、中々に際どいありさまになっていた着物の崩れも直した。
 一人で取り乱していたのがなんだか小恥ずかしく、辺りをきょろきょろと確認する。自分以外に誰もいるはずがない自室だからと確信めいた安心を覚えていたのだが、出入り口のほうへ視線を向けたところで、そんな“いるはずのない誰か”とぱちりと目が合ってしまった。今は、誰とも目を合わせたくなかったのに。
「お、おはよう。大丈夫か……?」
 聞き慣れた柔い声が、戸惑いの色を見せる。見慣れた隻眼が、八の字の眉に合わせて困ったように細められた。
「あー……おはよう。……まぁ、平気」
 顔を中心点に、体が再び火照った気がした。
 勘弁してほしい。